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PJ: 大谷 憲史

今年も電話が鳴った
2009年11月13日 08:21 JST


知事公舎でのパソコン教室の様子(宮崎市、撮影:大谷憲史、2007年8月) 

【PJニュース 2009年11月13日】11月11日午後、携帯電話にAさんからの着信が表示された。毎年この時期になると、Aさんからパソコンサポートの依頼が入る。年賀状の作成である。年に1回のサポートだが、もうかれこれ5年になる。今年はどんな年賀状を作りたいのだろうか。

私がパソコンサポートをはじめて、7年になる。健常者、障害者の区別なく、電話が鳴れば出掛けている。「身体がしっかりしていれば、みなさんと公民館で学びたいのですが」と話すAさんは、脳梗塞の後遺症で身体が不自由である。しかし、実に器用にパソコンを操作する。せっかくパソコンがあるのだから、せめて年賀状ぐらいは自分で作ってみたいということで、知人の紹介でサポートするようになった。

Aさんは日本語入力には問題はないが、年賀状作成は年に1回のことなので、パソコン操作に自信がないとのこと。そばに私がいれば、操作を間違えてもすぐに教えてもらえるから安心されているようである。

1年に1回のサポートなので、話したいことがたくさんあるのだろう。なかなか年賀状作成に入れない。しかし、話し相手になってあげることも、一つのサポートだと考えている。公民館にやってこられる受講生もそうである。世間話が弾んで、なかなか講座に入れないこともある。パソコンを通じてのコミュニケーションや仲間づくりは、高齢者にとっては大切なことなのかもしれない。

かくいう私もそうであった。

学校での激務からうつ病になった私は、心療内科医から学校とは全く違う公民館でのボランティア活動を勧められた。パソコンを教えるボランティアとしては、「教えてやろう」という気負いがあったが、教わる側の受講生さんから、「先生、ここは学校じゃないんだから、もっと肩の力を抜いて」と、逆に励まされてしまった。

公民館では“教え合い、学び合い、助け合い”の精神が浸透していて、「今日できなかったら、この次がんばりましょう」と、まさに生涯をかけて学んでいこうとする受講生さんの姿勢に学ばされた。学校を辞め、公民館での生涯教育に取り組み始めると、いつの間にかうつ病は治ってしまった。公民館でのゆったりとした学びの姿勢が、私に合っていたのだろう。それからは、時には脱線しながら受講生さんとの会話を楽しみながら、パソコンを教えるようになった。

周囲からは公務員を辞めてばかなことをしたものだと言われもしたが、あのまま教員を続けていたら、今の私はなかっただろう。

数年前のある日、最高齢の88歳の受講生Bさんが、「先生、わしが死んだらノートパソコンを棺桶に入れっちくり(入れてださい)。あの世でも勉強すっかい(勉強します)」と、話しかけてきた。冗談とも本気ともとれるような内容に、「Bさんは、まだまだ死なんかい(死にませんから)、大丈夫じゃが(大丈夫ですよ)」と、笑って答えたこともあった。

83歳の受講生Cさんは、2時間のサポートのなかで、1時間以上も戦争のことを語ってくれる。大筋の話は毎回同じだが、私が相槌を打つことで話が発展していくのが楽しみで、つい私もパソコンそっちのけで聞き入っている。全くパソコンを勉強しなかったこともあった。

受講生さんにとっては、パソコンを学ぶことはどうでも良いことであって、誰かとコミュニケーションをとり続けていたいのではないかとも考える。

息子や娘が県外に出て、自宅には夫婦二人。受講生Dさんは、「家にいてもばーさんとしか話をしないから、公民館に来るのです」と話す。なるほど、公民館に来れば誰かに会うから話す機会が増える。でも、ただ話すだけでは寂しい高齢者と思われるから、何かの講座を受講する。息子や娘からパソコンをもらったことが、受講のきっかけとなった方も多い。

しかし最近、父が所属しているグランドゴルフのクラブで不幸があった。練習時間になっても姿が見えなかったため、父たちが自宅に出掛けたところ、玄関口には数日分の新聞がたまっていた。不審に思ったクラブの会長が警察に通報し、自宅内を確認したところ、女性が亡くなっていたことが分かった。くも膜下出血だとのことであった。一人暮らしだったため、発見が遅れたようである。

父たちは、「日ごろからお互いの声かけや自宅へ出掛けて茶飲み話をしなければ・・・」とショックを受けていたようである。

地域内の高齢者の孤独死を完全に防ぐことは難しいかもしれないが、日ごろからのコミュニケーションはやはり大切である。

Aさんは奥様と二人で暮らしているが、1年ぶりに声を聞いて安心した。Aさん宅に出向くのが楽しみである。今年はどんな年賀状を作りたいのだろうか。【了】

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