PJ: 林田 力
業平橋駅がスカイツリー駅に変わる寂寥感
2011年01月16日 07:57 JST
【PJニュース 2011年1月16日】東武伊勢崎線・業平橋駅が2012年春のスカイツリー開業に合わせて「とうきょうスカイツリー駅」に改称される。東武鉄道が2010年12月27日に発表した。東京スカイツリーの玄関駅としてアピールすることになるが、在原業平に由来する情緒溢れる駅名が消えることには寂寥感がある。
在原業平は『伊勢物語』の主人公とされる歌人である。この業平が東下りをして、「名にしおはばいざ言問はむ都鳥我がおもふ人はありやなしやと」との歌を詠んだことは有名である。その歴史・文学情緒ある駅名がなくなってしまう。そこには電鉄会社のエゴが感じられてならない。
東京スカイツリーの最寄り駅には押上駅と業平橋駅がある。東京スカイツリーに最も近い駅は業平橋駅である。しかし、最寄り駅としては以下の理由から押上駅が注目されがちであった。
第一に東京スカイツリーの建設地は東京都墨田区押上であり、そこから押上駅を連想しやすい。
第二に押上駅には京成押上線・東武伊勢崎線・東京メトロ半蔵門線・都営浅草線の停車駅であり、業平橋駅よりもアクセスが良い。
押上駅は京成電鉄の本社所在地であり、京成のターミナル駅である。東武鉄道としては押上駅ばかりが注目されることは愉快ではない。歴史ある駅名を捨ててまで東武鉄道が駅名を変更する背景には、押上駅と比べて劣勢になっている東京スカイツリーの玄関駅としての認知度を高めたいという経営事情が考えられる。
駅名には電鉄会社のエゴが表れる。京成本線・京成関屋駅と東武伊勢崎線・牛田駅は近接するが、駅名は別である。近接地に業平橋駅と押上駅が並存していることも、あまり自然ではない。京成のお膝元の押上に負けたくないという動機が駅名変更にあるならば住民にとって不幸である。
そもそも東京スカイツリーを地域活性化の起爆剤にしたいとする発想が貧困である。東京スカイツリーは手放しで絶賛されるようなものではない。高層建築は歴史的に培われてきた下町の景観を破壊する(林田力「東京スカイツリー賞賛一辺倒の貧困」PJニュース2010年5月18日)。
http://news.livedoor.com/article/detail/4774913/
特定世代にとっては東京タワー建設に象徴された「高度経済成長期の輝きよ、もう一度」という心境であろう。しかし、高度経済成長期を美化して振り返る発想はサブカルの世界では既に克服されている。浦沢直樹の漫画『20世紀少年』では高度成長期に育った少年の妄想が実現した世界の不気味さを描いた。そこでは大阪万博に代表される「人類の調和と進歩」の価値観が間違った方向に進む出発点になっている。
また、アニメ『クレヨンしんちゃん』の映画で最高傑作との声も強い『嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年公開)では高度経済成長期を美化して郷愁に浸ることの危険性を描いた。そこでも科学の進歩が人間を幸福にすると考えられていた高度成長期のナイーブな価値観と決別し、家族の幸福という地に足ついた未来を歩もうとする。
たとえ特定世代にとっては甘酸っぱく心地良いものでも、別の世代には迷惑でしかない。『オトナ帝国の逆襲』での風間君の台詞「懐かしいって、そんなにいいことなのかなあ」が象徴する。東京スカイツリーに東京タワーを重ね合わせて夢を託すことは日本社会を一層閉塞させるだけである。
そして業平橋駅の変更は日本における開発の本性を象徴する。全国各地で開発反対の住民運動が起きている。都内だけでも二子玉川ライズや下北沢、外環道、築地市場移転など多くの問題を抱えている。沖縄の米軍普天間基地の辺野古への移設反対運動にも開発反対の側面がある。
開発反対の声に対しては進歩や発展を否定するのかという感情的な反発がある。もし開発が、それまでの地域や住民との調和の下になされるならば、上記の反発にも三分程度の理はある。
しかし、日本の開発は往々にして昔からのものを破壊して、別なものを作る不連続なものである。住民にとっては進歩でも発展でもなく、今までの住環境の破壊でしかない。住民は懐古趣味から再開発に反対している訳ではない。今の生活を守るために闘っている。歴史性ある駅名の変更は、開発の破壊的性格を象徴する。【了】
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林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』
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