PJ: 田中 大也
迫り来るコンピューター「ウィルス」規制法案の脅威 作成だけでなく取得や保管も処罰対象
2011年02月17日 08:10 JST
【PJニュース 2011年2月17日】先日、コンピューターウィルスの作成等々の規制を軸とした新たな規制法案の概要が、民主党の法務部会に提出されたことが明らかになった。法律の策定を主導してきた法務省としては、現在開かれている通常国会での提出・成立を目指しているという。
この法律は、近年の日本でも「イカタコウィルス」が話題となったが、そうした各種の
コンピューターウィルスによる被害を防止するため、作成段階での摘発を容易にするものと主張されている。
一見、問題なさそうな法律にも思えるこの法律だが、潜在的な危険性は極めて高いものがあり、現段階では、あまり大きく報じられていないにも関わらず、既に反対の声が多く上がっている状況がある。では、一体どういった点が問題なのだろうか。今後数回にわたって、各方面から問題点を分析していこう。
■明確ではない「コンピューターウィルス」の定義
第一に、コンピューターを不調に陥れ、あるいは破壊する等の「コンピューターウィルス」は、自然界の細菌や微生物、ウィルスとは違い、定義が極めて不明瞭な現状がある。
「ウィルス」とは言うものの、筆者が今、この原稿を書くのに使っているワープロソフトと同じ、単なるソフト、あるいはプログラムに過ぎない。
そして、正規に販売、あるいは配布されているようなソフトやプログラムに関しても、プログラムの設計ミス等々の原因により、取得したコンピューターにトラブルを招いてしまうことも少なくないのが現状だ。
つまり、「ウィルス作成」を理由に、何らかの善意によって作成されたプログラムが禁制品扱いされ、作成者が逮捕されるという事態が発生する危険も非常に高いと考えられるのだ。
近年、いわゆるIT化が進む中で、無数のソフトが企業のみならず個人の手によって作成されているわけだが、作成段階で処罰の対象になり得るとなれば、今後の開発を躊躇させ、ソフトの進化を停滞させてしまうことにもつながりかねない。
また、何者かの手によって、新たなウィルス被害が問題になった際、ウィルスに類似したプログラムを作り出し、対策を考えていくことも難しくなってくるわけで、ウィルス作成罪によってセキュリティが脆弱になるという危険性もある。
■「正当な理由なく」という一文は、過剰な摘発への抑止力とはならない
そもそも、今回の法案は、かつて、悪名高い共謀罪とセットで、何度も提出されてきたものと同種であると指摘されている。
その際には、前述したような、セキュリティソフトの開発といった、正当な理由での「ウィルス」作成も妨げかねないという理由もあって廃案になったが、今回は以前の反省を踏まえ、「正当な理由なく」という一文を付け加えることで、過剰な摘発を防ごうとしているようだ。
しかし、結局「正当な理由」かどうかを判断するのは取り締まり当局と裁判所なのが現実で、こうした但し書きがあっても、「暴走」は全く防げない。
児童ポルノ禁止法でも、同様に「濫用するな」という趣旨の一文はあるものの、穏当なヌードはおろか、水着までも、範囲に加えられているだけでなく、自分自身を撮影したというケースにも「人権侵害」を裁くための児童ポルノ禁止法が適用されているのが現状で、更には、客観的に年齢が把握できなかった被写体に対しても、取り締まり側が「鑑定」、つまりは主張して法律を適用しているのが現状だ。
早い話が、警察が摘発に踏み切れば、ソフト作成者は、「正当な理由なく」ウィルスを作成していたということになってしまうだろう。
前述したように、どんなプログラムやソフトがウィルスと認定されるのか、そもそも定義が明確になり得ない部分もある。多くのソフト制作企業やソフトを作った個人が、「犯罪者」となる危険に晒される危険性は否定できない。
■「作成」だけではなく、「取得」や「保管」も法的処罰の対象に!
さらにこの法律が問題なのは、ウィルスの「作成」だけではなく、「取得」や「保管」までもが刑事罰の対象になっているところだ。
こうなるとその危険性は、「児童ポルノ」の「受け手」を処罰する法律よりも、さらに高いものになるかも知れない。
そもそも何故、「コンピューターウィルスに感染」という表現が用いられるかと言うと、本人が全く認知できない形で、プログラムの取得が行われるからだ。と、なれば、普通にネットに接続して、PC等でサイトを閲覧したりしている以上、誰もが「犯罪者」になり得る危険性があり、それを回避するのは困難を極めるということになる。
しかも、量刑設定は「作成」が最高懲役三年なのに対して、「取得」や「保管」は最高二年の懲役が科せられるとも報じられている。
ウィルスに感染し、病気になっただけで刑務所に隔離されるような、ほとんど非現実的な社会が、この法律の動向次第では現実になりかねないのだ。しかも、繰り返すようだが、「ウィルス」は、定義を固められない性質を持っており、定義の拡大を食い止めることは極めて難しい。
「病人」を「テロリスト」扱いして投獄する、そんな社会は、今日の日本では考えられなかったが、今後の社会の現実は、全く別のものになるかも知れない。生きていれば細菌に感染するリスクをゼロにできないように、PC等を使い、ネット網から情報を得ているだけで、犯罪者として投獄されるリスクを負うという、ディストピア化された監獄社会を、この恐るべきウィルス作成罪が構築してしまう危険は十二分にあると言わざるを得ないだろう。【了】
■関連情報
PJニュースは一般市民からパブリック・ジャーナリスト(PJ:市民記者)を募り、市民主体型のジャーナリズムを目指すパブリック・メディアです。身近な話題から政治論議までニュースやオピニオンを幅広く提供しています。
PJ募集中!みなさんもPJに登録して身の丈にあったニュースや多くの人に伝えたいオピニオンをパブリックに伝えてみませんか。

