PJニュース

PJ: 高橋 清隆

【書評】『お金がなければ刷りなさい』小野盛司・中村慶一郎共著(ナビ出版)
2008年05月24日 05:17 JST


『お金がなければ刷りなさい』小野盛司・中村慶一郎共著(ナビ出版) 

「景気は緩やかに回復」「デフレ状況にはない」などの政府が発する言葉に、どれだけの国民が共感しているだろうか。もはや経済大国と胸を張れないところまで落ち込んだわが国にとって、極めて重要な提言書である。

「日本経済復活の会」会長の小野氏と、元読売新聞の政治記者でニュース番組のコメンテーターとして知られる中村氏との共著である。小野氏は東大で理学博士号を取得した異色の経済研究者。物理学畑出身だけに、数値による論証は明快で説得力を持つ。ただし、その主張するところは、経済学をかじったことのある人には至極真っ当なものに映るはずである。

出版記念パーティーでの綿貫民輔前衆議院議長や中川秀直元自民党幹事長などの祝辞からも、本書が政界に強い影響を与えていることが分かる。

本書ではまず、わが国の経済的地位の低下を客観的に示す。政界のGDPに占める日本の割合は、1994年の17.9%から2006年に9.1%まで下がり、07年には7.9%になる見込み。デフレ下で緊縮財政を組んできた結果である。国民一人当たりのGDPは1993年の1位から06年には18位に後退した。

この現状を打開して日本経済を復活させる手段こそ、積極財政政策だと説く。過去のデータを忠実に再現するモデルを作り、試算を繰り返した結論である。1930年代の「昭和恐慌」のときは金本位制のため、資金不足に陥りながら十分な貨幣発行ができなかった。現在は管理通貨制度で自由に発行できるにもかかわらず、政府はやらない。刷ればそれだけ名目GDPを押し上げ、税収も回復するのにと嘆く。

不思議なのは、政府も経済財政諮問会議で歳出拡大がデフレ脱却を図ると明示していることである。本書に掲載された08年1月の内閣府のモデルでは、3年で2.9兆円の景気対策をすればデフレーターは0.2%上昇する。それなら10兆円の景気対策を3年続ければデフレーターは2%上昇し、完全にデフレから脱却できることになるのではないか。それにもかかわらず政府はデフレ克服策を講じてこなかった。

小野氏が内閣府の計量分析室に確認したところ、景気対策をやらないのはプライマリーバランス(基礎的財政収支)を2011年に黒字化する政府目標があるからだとの回答を得た。この目標は支離滅裂だと批判する。黒字化の目的は「債務残高の対GDP比を引き下げるため」と答弁書で説明しているが、積極財政の方が債務の対GDP比が減る結果を出しているからである。

最も分かりやすい景気対策として、政府貨幣の発行にも言及している。ただし、本書のタイトルにある「刷りなさい」の言葉は比喩的な意味で使われている。直接的には新規国債発行額を増やして政府がお金を手に入れ、それを減税や歳出拡大で国民のために使おうというのが本書の趣旨である。

積極財政の効果は絶大である。日経新聞社の経済予測プログラムを使った試算を示すが、それによれば2000年から5年間に50兆円の財政出動をした場合、約30%の実質GDPの伸びが得られる。減税により最初の1ー2年は税収が減るが、3年目に追い付き、4ー5年目には税収が増える。10兆円の財政出動でも同様である。

積極財政を組まない政府の誤りを追及するため、「復活の会」顧問の滝実(たき・まこと)衆議院議員を通じて21回もの質問主意書を提出した。そのうち、至近12回の質疑応答を後半に掲載している。

お金を国民に行き渡らせるべしとの主張は、年金の在り方にも及ぶ。100年後の給付額を確保するため社会保険料を引き上げるのは、国民からお金を吸い上げ、さらに貧乏にすると批判する。現在約6年分の給付を賄える220兆円超の積立金があるが、賦課方式では本来積立金は不要なはず。「給付額が増えるから消費税を上げよ」などとの主張は全く正当化されないと断じる。

本書はわが国の言論統制の実態についても触れている。マスコミは財政出動反対、公共投資削減の論調一色である。積極財政を唱えるエコノミストはテレビからすべて追放された。積極財政派の政治家も、積極財政をテレビで訴える機会を奪われていると指摘する。

積極財政のシミュレーションも多数のシンクタンクに持ち掛けたが、すべて断られたという。唯一協力してくれた日経新聞社からも、発表直前になって断りの連絡が来た。小野氏が「復活の会」顧問の国会議員を通じて国会で問題にすると宣言したら許可されたと明かす。

小野氏の会社に「税務調査」と称して男性が訪れ、身辺調査もされた。「復活の会」の活動についていろいろ尋ねられたという。積極財政への圧力には並ならぬものを感じる。

3月14日の参議院予算委員会で、自見庄三郎議員が福田首相と交渉し、宍戸駿太郎氏と大田弘子大臣の公開討論を約束させた。この場面はNHKで中継された。宍戸氏は国際レオンチェフ賞受賞者で、世界的な経済学者。自見議員とともに「復活の会」顧問を務める。しかし、討論は実現していない。政府各局が担当をたらい回しにしているからである。ここにも強い圧力を感じる。

かつて「ミスター円」と呼ばれ、厳しい国際交渉の第一線に立たされた元大蔵官僚の榊原英資氏は、「米国に盾突くと、後ろから撃たれる」と漏らしたことがある。「後ろ」とは国内世論、つまりマスコミのことである。わが国のマスメディアが外国の意志で動いていることを示唆する。

わが国の言論空間が外部に支配される中、われわれの子孫の運命はこの本のメッセージがどれだけ国民に伝わるかにかかっている。【了】

■関連記事
「デフレから脱却したとまでは判断していない」と政府。滝実衆議の質問趣意書への回答
政府が財政破たんに含み―増税へのゆがんだ宣伝かー
『実感なき景気回復に潜む金融恐慌の罠』の真相について 菊池英博氏へのインタビューを終えて
ジャーナリズムの本当の目的

■関連情報
『お金がなければ刷りなさい』
PJニュース.net
日本経済復活の会
参議院インターネット審議中継(2008年3月14日、自見庄三郎)



関連記事:
タグ:
pagetop

PJ 記者