PJ: 高橋 清隆
消えた大臣討論会にちらつく経済の真相封じ
2008年08月06日 08:28 JST
停滞を続ける景気状況に、追い打ちを掛ける物価上昇。賃上げはままならず、不安定就労は拡大を続ける。そして緊縮財政の中、増税論議がくすぶる。政府が採り続ける経済政策の誤りを白日の下にさらすはずの大臣討論会が8月8日に予定されていたが、内閣改造によって幻となった。真相を封じようとする権力の思惑がちらつく。
福田首相が国会で大田前大臣に指示
予定されていた討論会は、大田弘子前経済財政担当大臣と宍戸駿太郎筑波大学名誉教授によるもの。「日本経済復活の会」顧問を務める自見庄三郎参議院議員が3月14日の参議院予算委員会で福田首相に談判し、約束させたものである。内閣府経済社会総合研究所(ESRI)が定期開催する「経済政策フォーラム」の形で開かれるが、大臣も前大臣も出ない、事実上の政府説明会になる。
宍戸教授は計量経済学の第一人者で、世界的権威のある国際レオンチェフ賞も受賞している。政府が政策の根拠に使う「内閣府経済財政モデル」が実態からかけ離れていることを指摘。今回の討論会に備え、このモデルの論拠を示すよう求めていた。
実際、内閣府の計量経済モデルはでたらめである。公共投資の乗数効果を異常に低く見積もり、緊縮財政を正当化してきた。その一方で名目GDP成長率を過大予想し、毎年下方修正している。昨年1月に発表した2008年の名目GDP成長率は2.8%だったが、0.3%の見通しとする方向で調整に入っている。
投資効果の隠ぺいが国民経済を悪化
投資効果を十分に評価しない内閣モデルでも、財政政策の効果を認めている。内閣府が1月17日に発表した「日本経済の進路と戦略」には、緊縮財政を行った場合(ケースA)と積極財政を行った場合(ケースB)の2つの成長シナリオが比較されている。この試算では、2011年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は緊縮財政のケースAの方が縮小するが、借金のGDP比は、積極財政のケースBの方が低くなる(図表1)。これは何とばかげたことだろう。「2011年までのプライマリーバランス黒字化」を掲げ歳出削減に取り組む政府は、その目的を「債務のGDP比を減らすため」と述べている。
経済学を少しでもかじったことがあれば、公共投資による有効需要の拡大がGDPを押し上げることは自明である。不況のとき、金融緩和と積極財政は処方の両輪である。債務を減らすには、景気回復を図ることによって税収を増やしていく以外ない。
政府が緊縮財政を採るようになったのは、国の借金を問題にしだしてから。橋本首相時代の1996年、「日本政府の粗債務のGDP比率が先進国の中で最悪(87%)になった」と発表し、財政再建法を制定する口実とした。しかし、前文京学院大学教授の菊池英博氏は政府の財政状況を「粗債務」から金融資産を引いた「純債務」で見るべきと主張する。日本政府にはGDPを上回る530兆円の金融資産がある。
ただし、負債を気にして緊縮に走った結果、借金も膨れ上がる一方だ。1996年に449兆円台だった国と地方の借金は、今や778兆円。国民一人当たり名目GDPは世界18位に落ち、名目成長率は昨年0.6%、今年の見通し0.3%と、いずれもOECD加盟30カ国中、ダントツで最下位だ(図表2)。
内閣府による相次ぐ妨害工作
衰退の原因が知れ渡るのを恐れたのかもしれない。政府は討論会を懸命に先延ばしてきた。テレビ中継された国会での約束の後、どの部署が担当するか一向に定まらなかった。財務省と内閣府の間でたらい回しになった。主催者についても、省庁か参議院か「日本経済復活の会」かはっきりせず、会場を取ることができなかった。決断しない内閣府に自見議員が業を煮やし、たんかを切った。「総理大臣が決めたことを君たちは反故(ほご)にするのか。それでも官僚か」。
そうして決まった日程は、北京五輪の開幕日。内閣改造は寝耳に水だった。少なくとも一般国民には。担当する内閣府の官僚はこれを知らなかったのだろか。
討論会実現のため最後まで奔走した自見議員は、第2次福田内閣を「消費税地ならし内閣」と喝破した。大田大臣の後を引き継いだのは、増税を主張していた与謝野馨自民党税制調査会小委員長。福田首相は「あらかじめ持てる政策手段を総動員してできるだけのことをやっておく必要がある」と表明し、補正予算も視野に入れた総合経済対策の策定を指示している。歳出を増税の口実づくりにしようとしているのではないか。
もちろん、好意的に解釈することもできる。積極財政の必要性がようやく理解されたのだと。ならば、なぜ討論会を避けたのか。大田前大臣の苦悩は察するが、討論での敗北は政府にとって政策転換表明の格好の機会になるはず。「日本経済復活の会」の小野盛司会長の事務所は税務調査と称して見知らぬ男に調べられたし、7月の「マクロモデル研究会」には内閣府から主催者に「小野盛司は出席させるな」との命令があった。
わが国の経済は、普通に策を講じれば、失業も減らし、借金も返せる。国民は自滅的な経済政策を仕方ないものだと思わされている。問題は大臣討論会が消えたことではない。できることをせず、国の復活をみすみす逃していることである。【了】
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