PJ: 高橋 清隆
あいまいな犯罪歴ファイルの恐怖
2008年08月10日 08:05 JST

警視庁(撮影:高橋清隆、8月8日) 
行政は個人についてのさまざまな情報を握る。警察は起訴に至らない過去の犯罪歴を保管しているとうわさされる。「わたしに後ろめたい過去はないから関係ない」。そう言い張るかもしれないが、確かめようがないだけに警察が「逮捕歴○回」と流せば、誰にでも打撃を与えることができる。
この闇のファイルについての疑いは、植草一秀元教授が講談社を相手取って起こした損害賠償請求訴訟の裁判で浮上した。週刊誌『フライデー』は植草氏について、有罪判決を受けている事案以外にも2つの逮捕歴と、7〜8回厳重注意を受けた「余罪」があると書いていた。
この裁判は講談社に110万円の支払いを命じ、植草氏が勝訴した。書いた記者は警視庁担当の新聞記者から情報を入手し、旧知の警察関係者から「まあ、そうだ」との認知を得たと明かした。この関係者は、警察内部で過去の犯罪歴にアクセスできる人から聞いたとしている。もし、警察内部に個人の犯罪や注意を受けた履歴データが流通しているとしたら大きな問題をはらむ。容疑者に不利な情報を起訴前にマスコミに漏らせば、「クロ」との先入観で公判が進められるからである。
4月21日の裁判で原告弁護団が問題のファイル名を尋ねた。被告側の記者は思い出すように「犯罪歴照会証明書」と証言した。被告側代理人は警察に「記録を見せてほしい」と申請したが応じてくれず、可否についても返答がないことを強調した。結局、被告側は申請を取り下げている。「『厳重注意』の事実が、なかった証拠だと思う」と原告弁護団は説明した。
一体、このようなファイルが存在するのだろうか。2006年9月、植草氏が京急電車内で痴漢事件に巻き込まれた直後、『女性セブン』が同氏について「『痴漢で示談7回』の過去」との記事を掲載したので、わたしは警視庁広報課を訪ねた。犯罪歴の情報が警察全体で共有されているのかと、一般論として質問した。
「それはあり得ません。個人情報ですから。事件を担当している者以外が犯罪歴を自由に見ることはできません」。
先の植草氏の判決は「犯罪歴にアクセスした人物が存在したかも疑問を持たざるを得ない」と断じたが、ファイル自体が存在しないのかもしれない。そうなら、議論自体が無意味だ。情報公開法では、行政文書の存否を答えるだけで不開示情報を開示することになるときは、存否を明らかにせず開示請求を拒否できると定めている。
植草氏の民事訴訟弁護団長を務める梓澤和幸弁護士は、ファイルの不透明さを批判する。「行政機関保有個人情報保護法によって、犯罪捜査など公安にかかわる個人情報は請求があっても開示しなくていいことになっている。何が書いてあるか分からず、確かめる手立てもない。そもそもあるかどうか分からないファイルの存在は脅威です。権力は『情報があった』と漏らすことで、狙った人物を確実に落とすことができる」。
法に守られ確かめることもできないファイルの影は、国民に潜在的脅威を与えている。【了】
■関連情報
植草事件報道で名誉棄損の『フライデー』に賠償命令=東京地裁
高橋清隆の文書館
PJニュース.net

