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PJ: 高橋 清隆

亡国番組の言い訳−9月6日放送のNHK総合『日本の、これから 税金』
2008年10月18日 04:27 JST

マスメディアが権力の広報であることは、賢明な読者には説明するまでもないだろう。情報による民衆の支配装置だと構えていれば、いちいち番組に目くじらを立てる気も起きないが、番組制作に協力した人が身近にいて期待を裏切られた。問い合わせてメディアの本質を再確認する機会になったので、ここに紹介する。

 その番組は、NHK総合テレビが9月6日に放送した『日本の、これから 税金』。スタジオ撮りの生放送で、30人ほどの市民と4人の専門家が出演。冒頭に「国のサイフは500兆円にのぼる大赤字。一方、膨らむ医療費や年金の財源。あなたは日本の将来を考えた場合、増税についてどう考えますか?」と課題設定し、番組は進んだ。

 出演した専門家は竹中平蔵元金融相、伊吹文明財務大臣(当時)、土居丈朗慶応大学准教授、森永卓郎獨協大学教授。2人のアナウンサーがパネルを使って国の借金の大きさを示し、「歳出削減だけでは問題を解決できないのではないか」と向ける。増税を肯定する3人の専門家と景気対策を容認する森永氏1人が議論する合間に、大阪からのお笑い中継とスタジオ参加者の意見を織り交ぜる展開で、増税の必要性を訴える性格の濃い内容だった。

 番組の中で幾つもの質問が出されたが、どれも作為的だ。高齢者の社会保障費が現役世代を圧迫していることを説明した後、「制度維持のため高齢者の一部負担に賛成か反対か」と尋ねたり、「法人税を引き下げ、所得税の最高税率も下げられた。ただし、上げると企業が海外へ逃げていく。どうすればいいか」とも。完全な誘導尋問である。「賛成」「増税」と答えさせるための。

 番組制作に協力した身近な人とは、「日本経済復活の会」の小野盛司会長である。小野氏は7月に協力を求められたとき、そのような内容になるとは夢に思わなかったという。小野氏は番組ディレクターから電話をもらい、「(著書の)『お金がなければ刷りなさい』を読んで感動した。財政政策の原理について教えてほしい」と言われ、放送センターに出向き講義。積極財政を組むことによって国民生活は豊かになり、借金も減ることを説明した。10人ほどの職員は皆納得した様子だったという。

 小野氏や小野氏が推薦する学者の出演依頼もなく、当日を迎え、上記の放送になった。旧大蔵省財政金融研究所への勤務経験もあるエコノミストの植草一秀氏は、この番組が政治に支配されたことを看破している。伊吹氏は財務省を代表し、土居氏は同省財務総合研究所の主任研究官を2年務めた。竹中氏は、土居氏に援軍を求めたのだろうと。

 わたしはなぜそのような番組になったのか気になり、NHKに問い合わせた。担当ディレクターに番組の趣旨変更の理由をただし、面会を求めた。しかし、面会は拒まれ、電話で回答を得た。

 「番組の趣旨を変えたわけではない。大蔵省(ママ)の意見ばかり出してはいけないと思い、違う意見の人として小野氏に話を聞いた。スタジオの中にも、そういう意見の方も入れた」

 財務省の人と接触したかどうかただすと、複数回会ったことを認めた。わたしが「皆さん、小野先生の講義に納得されていたそうだが」と向けると、「そういう考え方もあるのかという意味で『分かった』とは言った。取材する側としては普通そうだから」と答えた。

 わたしは初めからライブドアの市民記者を名乗ったが、記事にすると述べると、慌てた声になった。

 「それなら、出るとこに出るから」
 「それはどういうことでしょうか」
 「法的手段に訴える。こっちが拒否している記事を載せるのはルール違反だから」
 「お電話でということでしたから。では会っていただけるのでしょうか」

 すると、プロデューサーに聞いてからにしたいと切られた。夕方、責任者を名乗るプロデューサーから電話があった。もの柔らかな話し方の男性は、最初から増税ありきで制作したわけでなく、景気対策、歳出削減、増税の3つの議論が政治の世界であることを踏まえ、本番で自由に議論できるようにしたことを強調した。

 財務省から要請があったのかとただすと、「財務省から同じように勉強会で話を聞き、資料をもらったが、『増税をPRせよ』などと言われてはいない。番組は公正、中立であるべきですから」と答える。

 わたしが「とても3つの主張が公平に紹介されたように見えないが」と言うと、「それはとらえ方の問題です」ときっぱり。わたしは何もNHKに恨みがあるわけでもないし、彼らの人となりが嫌いなわけではない。あらゆるサラリーマンが賃金奴隷であることにかわりはない。彼らは上からの方針通りに仕事をしているだけである。それが子孫の命運を左右する国家政策にかかわることだけに見過ごせないだけである。

 財務官僚だって同じだ。マックス・ウェーバーは「官僚の使命はその政策が正しかろうと間違っていようと、決められたことを完ぺきに処理することである」と述べた。その意味で、ファストフード店の店員も財務官僚も変わりない。違うのは、後者は自分が国を支配していると思い込んでいる点だけである。そして彼らの意向に沿って、公共放送の職員はその組織内の序列にのっとって番組を完成させる。それだけのことである。

 もっとも、国内権力に従うだけならかわいいものだ。不完全な政策であろうと、子孫の幸運を願って考えたことだから。デフレ下の緊縮財政続きは、とてもそんな優雅なものに思えない。不景気の中、政府ですら減税と財政出動を考え始めたときに、なぜNHKが増税を促すのか。この局は一体、どこの国の公共放送なのだろう。不愉快な番組の制作過程をつつき、この国に主権がないことをまた確認した。【了】

■関連情報
『偽装報道を見抜け!―世論を誘導するマスメディアの本質』高橋清隆(ナビ出版)
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