PJ: 高橋 清隆
ニュース研究(4) 校長痴漢報道の真意
2008年12月05日 10:04 JST
この1−2年、学校長が痴漢をして捕まるニュースが多い。電車内でお尻をなでたといったものから、出会い系サイトを通じての買春、街頭での下半身露出、女子生徒への脅迫など。一般教諭による同種の犯行も頻繁だ。信じ難いだけに、国民の注目を浴びる。ずばり、これら報道の目的は、大衆世論を味方に外国人教師導入を含む教育市場開放の口実をつくることとみる。
真相を知り得ないわいせつ事件の闇
マスコミが流すニュースなど、警察発表を作文しているだけだからうのみにしてはならない。元教え子を脅迫したとして3月に逮捕された埼玉県川口市の校長は、「人を殺すことは平気だよ」といったメールを送っていたと報じられた。しかし、交際を迫るためにそんなことをするだろうか。これまで見たどの教師もわたしより立派な人間だったし、逮捕されたこの校長は生徒や保護者から信頼が厚かったという。
6月には、マクドナルドの店内で女子高生のスカートの中をまさぐったとして東京都武蔵村山市の元中学校長が逮捕されている。被害者とは2年前から教育相談室で話をする仲だったというから、何か事情があったとみるべきではないか。
昨年9月、大阪市内で下半身を露出したとして小学校の校長が逮捕された。発見されたのは現場から150メートル離れた駐車場で、「身に覚えがない」と容疑を否認している。報道で否認の言葉が出るのは珍しく、相当な抵抗と解釈した方がいい。
7月、産経新聞に妙な記事が載った。2年前に電車内での痴漢行為で懲戒免職となった都立高校の副校長が停職6カ月に修正されていたという趣旨で、「副校長は再び教壇に立つ可能性もあり、疑問の声も上がっている」と批判を促す。なぜこのようなことが分かったのか。産経新聞が公開請求をしたからだと記事の中で明かしている。既存の教育システム自体を破壊したい意図が見てとれる。
わたしの身近にも痴漢で捕まった小学校の校長がいる。電車内で取り押さえられ、定年を前に懲戒免職処分を受けた。しかし、本人は全く身に覚えがなく、怒りのやり場もない。人格者であり、周囲も同情的だ。報道された同種の事件もすべてそうだと主張する根拠はない。しかし、教育現場に対し圧力がかけられていることは間違いない。
米国は教育市場開放と移民政策を要求
米国が教育市場の開放を要求していることは、賢明な読者ならご存知だろう。わが国で金融改革や郵政民営化を実現し、主だった企業を一通り買収し終えた国際資本が残す標的は、医療と教育分野くらい。元神奈川大学教授の故・吉川元忠氏によれば、米国は教育への株式会社の導入をもくろんでいる。
在日米国商工会議所が2006年に出した『ACCJビジネス白書−−相利共生』は、「人的資源」の章で教育制度の変更と移民の活用を挙げている。「教育」と題した節は、次のように結ぶ。
「日本は、複雑な経済や福祉社会に不可欠なスペシャリストを育成するための教育システムを必要としている。また日本には、外国市場のビジネスチャンスを迅速に把握してこれに投資できる言語能力を備え、各分野における世界レベルでの進歩状況を追跡してこれに貢献するとともに、グローバルな思考、政策、および枠組みを形成するための論議に参加できる人材が必要である」
この文言が示唆するのは、教育制度の米国流への改変と、教育現場を含む産業界への外国人の採用である。この章の末尾にある「提言」には、教育システム改革の手始めとして、英語教育に手を付けることをうたう。
「・全教育課程における英語教育方法を改善する。まずは、他国で効果が実証されている英語指導技術を英語教師が習得するための総合プログラムの導入から始める」
同じく「移民」の項目は、次の記述で始まる。
「・日本経済への貢献が可能な外国人(およびその家族)の入国と在留を促進する政策と手続きについて、総合的かつ積極的な観点で実施する。
○外国で取得した資格や学位の認定
○在日外国人の永住権取得条件の緩和
○在日外国人に対する再入国許可システムの廃止」
至近の取り組みとして、外国人の英語教師を大量採用することを迫っているのではないか。自民党が掲げる「移民1000万人構想」とも合致する。
教育分野をめぐる米国の対日公文書に頻出するもう一つの要求項目は、大学教育制度の見直し。具体的には大学設置・運営の規制を撤廃して大学の裁量を拡大して競争を促すことと、外国大学の日本校に日本の大学と同等の税制面での優遇措置を設けることである。2007年の『日米投資イニシアティブ報告書』には「教育分野」の項目で、テンプル大学ジャパンの学校法人化に向け校地・校舎の自己所有要件緩和措置と税制優遇措置の適用について問題提起した結果、「解決した」ことを評価している。
実際のところ、改革要求は英教育と大学制度にとどまっているとは思えない。先のACCJ文書には、大学教育改革の必要性について言及した部分で次の記述がある。
「問題は、文部科学省が堅持している時代遅れの政策、すなわち、教育の質よりも教育機関運営の継続性と安定性を重視する政策である」
検察との合作による逮捕キャンペーン
我田引水な政策をごり押しする場合、既得権益を攻撃するのは最も簡単な方法だ。道路公団も郵政事業もこの理屈で民営化された。教育市場(日本人にこのような概念はない)をこじ開けたいときは、従来の組織体系の上位で恩恵を受けている者たちを攻撃すればよい。読者はすでにお気付きだろう。大分県の教員採用汚職事件もこれに該当することを。
筆者は2、3年前に騒がれた履修漏れ事件やいじめ問題、タウンミーティングのやらせ質問もこの一環とみる。教育市場開放の最大の障壁は、教育現場を守る教育委員会だからだ。「いじめも防げない教育委員会は血税を収奪するだけの教育官僚の天下り先にすぎない」といった論調が申し合わせたように各紙の社説を飾った。
ところで、マスコミ報道には、キャンペーン期間とでも言うべき宣伝攻勢がある。例えば、少年法は2001年と2004年に刑事処分を拡大する改正法を施行しているが、いずれの改正前も少年犯罪を執拗(しつよう)に報じている。酒鬼薔薇(さかきばら)事件や長崎幼児誘拐殺人事件はその代表例だ。両事件とも、やったのは明らかに捕まった少年ではない。
もう一つ例を挙げておけば、幼児虐待報道がそうだ。親のパチンコによる車内放置が宣伝され、2000年に児童虐待防止法が成立。親や内縁の妻による虐待や放置による餓死が喧伝(けんでん)され、2004年と今年4月に改正法が施行された。秋田児童連続殺人事件で起訴前の畠山鈴香容疑者がテレビに繰り返し映されたのも、これを後押しするためだろう。
キャンペーンには、報道だけでなく逮捕も含まれる。期間中に起きた事件は、できるだけ対象となる者を犯人として逮捕する。御殿場事件は被害者の少女が公判で「すべてうそでした」と告白したにもかかわらず、捕まった少年10人はそのまま処分を受けた。同事件の扱いが変わらない理由はここにあるとみる。
畠山鈴香被告も無実のはず。長女の彩香ちゃんを転落死として処理した警察に抗議し、再調査を求めるチラシを町中に配っていた。ちなみに、少年犯罪も児童虐待による死者も減っている。つまり、法整備の目的は別にある点に注意が必要だ。
教育現場で働く者でなければ、教師のイメージはマスメディアからの情報でできているはず。マスコミ宣伝に乗せられて大衆が教師を変態視し始めたとき、わが国の教育現場は外国資本の草刈り場になっていることだろう。【了】
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